ふと手に取った便箋
スーパーのレジ横で、季節の便箋が目に入った。
母の日の手紙、書いてみませんか?
という小さなPOP。
その日は、母の日。
いつの間にか、
私は母として何かを受け取る立場になっていた。
そこでふと「書いてみようかな」と思った。
書く相手は、実家の母。
……そして、もう一人。
伝えられなかった言葉
実母には、いつも遠慮してしまう。
自分でなんでもやろうとしてしまう性格もあって、
感謝も弱音も、言葉にできないまま時が過ぎていた。
でも、別居してみてはじめて分かった。
子どもを見てくれること、
ごはんを一緒に食べること、
何も言わずに隣にいてくれることが、
どれだけありがたいことだったのか。
便箋に書いた。
「お母さん、ありがとう。」
「わたし、やっと“お母さん”になってみて、
あなたがしてくれたことのすごさが分かりました。」
もうひとつの手紙
そしてもう一通、書かずに終わった手紙がある。
宛名は、未来のわたし。
もしかしたら、ひとりで子どもたちを育てているかもしれない。
それでも、笑っていられますように。
「あの日、母の日の便箋に書いたこの手紙を、
きっと何度も読み返すと思う。
あなたは大丈夫。
愛されなかった経験があるからこそ、
子どもたちに本当の優しさを渡せる人になれるから。」
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7月16日 午前6時更新