【第55話】外でニコニコ、家で無表情。そんなの私じゃない

ずっと他人とだけ過ごしたい

スーパーのレジで、おばあちゃんが順番を譲ってくれた。

「ありがとうございます」と深くお辞儀する。

外を子どもと歩いていると

街の人
街の人

小さくてかわいいわね。

うちの子にもそんな時期があった。

がんばってね。

と声をかけられる。

人の優しさに触れて、涙が出そうになる。

でも、家のドアを閉めたとたん、
心が拒否している感じがする。

わたし
わたし

帰ってきちゃったな

と思う。

家庭という地獄

元夫
元夫

外では元気そうなのに、なんで俺の前ではそうなるんだよ

夫は、そう言って責めた。
でも、それって逆だ。

外では仮面をかぶってる。

家でくらい、素の自分でいたかっただけ。

わたし
わたし

ここが唯一、気を抜ける場所であってほしい

そう思ってた。

だけど、夫の前では気が抜けなかった。

間違えた言葉を選んでしまったらすぐに責められる。

何気なく話した一言が、いつまでも根に持たれる。

だから、笑うのをやめた。
話すのをやめた。

だんだん、感情がなくなっていった

でも今は違う

わたし
わたし

家が一番落ち着く場所だね

そう言える日がくるなんて、当時は想像もできなかった。

でも今は、息子の寝顔を見ながら、静かに笑える。

家事を終えて一人で飲むお茶が、
やさしい味に感じる。

無理して笑う必要は、もうない

でも自然と顔がほころぶ瞬間が、
少しずつ戻ってきた。

わたしは、わたしの場所に帰ってきたんだと思う。


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10月10日午前6時更新

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