【第22話】”あなたのため”が奪ったもの

優しさのふりをした支配

夫

俺は、お前のためを思って言ってるんだ

そう言われるたびに、私は口をつぐんできた。

反論すれば、

夫

感謝が足りない

と責められる。

でも――私の心は少しずつ摩耗していた。

私のためって言うけど、
どこの私のためだったのだろう。

今のままでいいんだよと言ってくれる人は、
家庭にひとりもいなかった。

少しずつ壊れていった私

思い返せば、あなたのための名のもとに、

私はたくさんのものを手放してきた。

好きだった服、化粧、友人との付き合い。

夫

子供が小さいんだし…

夫

もう結婚したんだから…

そう言われ続けるうちに、

自分の輪郭がぼやけて、

何が好きで、
何をしたかったのか、
わからなくなっていった。

自分を取り戻すということ

それでも、時間は進む。

次男のほっぺにキスをしたとき、

長男の寝顔を見守る夜――

私は確かに、生きている。

あの頃よりずっと軽くなった心で、
少しずつ、自分を取り戻している。
もう誰にも、「あなたのため」と言わせない。

私が決める。私の人生の舵は、私が握る。

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